蓄音機レコードにまつわるエピソード Episode & Trivia

蓄音機で聴くレコードには演奏した音や歌った声の振動が溝として直接刻まれています。しかもそんな録音をしていたのは1910年から1929年の間だけという短い期間です。

蓄音機でも1930年以降は音を電気信号に変換して録音していました。

そんな短い期間でも演奏家は自分の音楽がレコードとして残り多くの人に聴いてもらえることに歓喜していたはずです。そんな時代に演奏家はどんな想いをレコードに込めたのでしょうか。

蓄音機とシェラック製レコードの歴史 History of shellac record

古代インドの天然樹脂 シェラック Laksha & Lakh in the Vedic period

  • B.C.1000 インドのヴェーダ時代にシェラック (Laksha)で使われた天然塗料。シェラックやラッカーの由来になったLakhはヒンズー語で100,000の意味 。シェラック 1kgがカイガラムシ数十万匹に相当することから命名された。チベット仏教の僧衣の染料
  • B.C.400 世界3大叙事詩のひとつマハーバーラタ (ヒンズー教の聖典)にシェラックで出来た宮殿 “ラクシャグリア”が記述された。カウラバ王家のドゥルヨーダナがパーンダバ王家の5兄弟を暗殺するために燃えやすい天然樹脂のシェラックで建造した。インドのバルナバ村にあるラクシャグラ遺跡として現存

シェラック樹脂の工業利用 Shellac for industry

  • 1534 マルコポーロによりシェラックが欧州に伝わる
  • 1830 シェラックを脱色する技術の発明
  • 1849 ウィリアム チンサーが独マインツの脱色技術を使いニューヨークでシェラックを生産開始
  • 1856 ヘンリー パーキンがシェラック色の合成アニリン樹脂を発明
  • 1872.6.7 ドイツのユーゲン バウマがポリ塩化ビニル合成を科学誌アンナーレンで報告

シェラック製SPレコードの変遷 Invention & history of shellac record

  • 1877.12.24 トーマス エジソンが振動板を介して振動を記録する円筒式録音機 “フォノグラフ phonograph”を発明し特許出願 (米国特許200,521, 登録1878.2.19)
  • 1887.5.4 エミール ベルリナーが波状に溝を刻んで録音する “グラモフォン gramophone”を発明し特許出願 (米国特許372,786, 登録1887.11.8)
  • 1888.3.17 ベルリナーがパラフィン膜に刻んだ波状の溝をエッチングして金属板に転写する製造法を発明し特許出願 (米国特許382,790, 登録1888.5.15)
    • 1893.3.18 ベルリナーが円盤式レコードの製造法を発明し特許出願 (米国特許548,623, 登録1895.10.29)
    • 1902.4.11 エンリコ カルーソ: オペラ “トスカ Tosca”, ”ゲルマニア Germania”, “メフィストフェーレ Mephistopheles”を録音
    • 1902.11.30 エンリコ カルーソ: オペラ “道化師 Pagliacci”, “カバレリア ルスティカーナ Cavalleria Rusticana”, “ラ ジョコンダ La Gioconda”, “君なんかもう愛していない Non t'amo più”, “フェドーラ Fedora”, “メフィストフェーレ Mephistopheles”を録音
    • 1902.12.1 エンリコ カルーソ: オペラ “我が歌 La mia canzone”を録音
  • 1904.1.20 ジョセフ サンダースがシェラックで作ったSPレコードを発明し特許出願 (米国特許787,001, 登録 1905.4.11)

塩ビ製レコードへの遷移 Shift to vinyl record

  • 1933.10.10 ノースカロライナのワルド シーモン (グッドリッチ社)がポリ塩化ビニルの可塑剤としてフタル酸ジブチルを特許出願 (米国特許 1,929,453)し、実用化
  • 1948.6.21 米国コロムビア社がポリ塩化ビニル製のレコードを初めて発売

蓄音機のレコード針 Needle for phonograph

蓄音機レコードの溝から振動を拾うために重要な役割を果たすのはレコード針。レコードを再生する度に針は摩耗してしまいます。

針が摩耗しない程に硬ければレコードの溝が削れてしまうので、針の方が削れるような硬さで作られます。ところが針先が削れてしまうとレコードの溝に合わなくなり、レコードの溝を変形させてしまうのです。

そのため初期の蓄音機レコードの針は頻繁に磨いて尖らせる必要がありました。

レコードの針をねじ止めする形式が初めて特許に記載されたのは、1897年9月17日。さらにねじ止めすることで針を頻繁に交換できる利点をクレームしたのは1898年4月19日のことでした。

そして1902年6月27日。レコードの溝を痛めにくくするため、針の芯が硬く周辺は柔らかい鋼鉄を使う発明が出願されています。

また、1906年7月6日には竹製の針も発明されました。

開発の変遷 Chronological table of invention

  • 1897.9.17 ワシントンDCのエミール ベルリナーが、針先をねじ止めする形式のサウンドボックスの原型を特許出願 (米国特許637,196, 登録1899.11.14)。ベルリナーは円盤式蓄音機 “グラモフォン”の発明者で、ベルリナー グラモフォン社の創業者。
  • 1898.4.19 フィラデルフィアのヨゼフ ウィリアム ジョーンズが、レコード盤に沿って横移動する形式の蓄音機のサウンドボックスを特許出願 (米国特許602,453, 登録1898.4.19)。ねじ止めすることで針を交換できることの利点を明記。
  • 1902.6.27 ビクター ヒューゴ エマーソンが、芯が硬く、周辺が柔らかい鋼鉄製の針を特許出願 (米国特許736,948, 登録1903.8.25)。エマーソンは、エマーソン フォノグラフ カンパニーの創業者。出願当時は、アメリカン グラフォフォン社の所属。
  • 1902.6.28 フィラデルフィアのホレス シーブルが、蓄音機の装備として使用済の針を入れておく窪みを特許出願 (米国特許730,169, 登録1903.6.2)。シーブルはアメリカン レコード カンパニーの創業者。
  • 1906.7.6 フレドリック D. ホールが、竹製の針を特許出願 (米国特許870,723, 登録1907.11.12)。ホールは、トーキング マシーン社の所属。

蓄音機のレコード針 Needle for phonograph

HMV ハーフトーン (イエロー缶)

ニードル缶の画像
His Master's Voice HMVのSPレコード用のニードル缶
SPレコードのニードル缶 (内部)
His Master's Voice HMVのSPレコード用のニードル缶 (内部)

クリーニングパッド Cleaning pad

蓄音機レコードは静電気を帯びやすく埃が付きやすいのが難点です。埃が付くと雑音の原因になりレコードを痛めることにもつながります。

そのためレコードの埃掃除は蓄音機レコードが発明されて以来の悩みごとでした。そのことは出願された特許からも想像できます。

今も昔もレコードのクリーニングはクリーナーを手で持って行うのが主流です。ところが驚くことに蓄音機に設置して自動でクリーニングする装置が多くの発明の主流でした。

とは言え、そのような発明が採用されて実用化された気配はありません。

手に持って使用するクリーナーの発明が出願されたのは、レコード盤の発明から33年も経った1921年9月6日のことでした。

アブラハムズが発明したレコードクリーナーは表面がベルベットで覆われており、アンティークグッズとして楽しまれています。

開発の変遷 Chronological table of invention

  • 1905.4.11 ニューヨークのフラン フォーセルがドラム式蓄音機に設置する形式のクリーニングブラシを特許出願 (米国特許832,249, 登録1905.10.2, Newcomb Blackman社)。
  • 1916.2.15 バッファローのローレンス レンネルが蓄音機のサウンドボックスと針の間に取り付ける形式のクリーニングブラシを特許出願 (米国特許1,202,428, 登録1916.10.24)。
  • 1916.5.6 バッファローのチャールズ パルマーが蓄音機のサウンドボックスに取り付ける形式のクリーニングブラシを特許出願 (米国特許1,225,847, 登録1917.5.15)。
  • 1917.6.1 ジェームズ ウォーシントンとウィリアム ウォーシントンが蓄音機のトーンアームに取り付ける形式のクリーニングブラシを特許出願 (米国特許1,242,751, 登録1917.10.9)。
  • 1917.6.18 デトロイトのジェームズ ブラザートンがレコードを挟んで両面を同時にクリーニングする形式のクリーニングブラシを特許出願 (米国特許1,261,688, 登録1918.4.2)。
  • 1917.7.10 デンバーのメイ ウィリアムが蓄音機の天板に取り付けるスイングアーム形式のクリーニングブラシを特許出願 (米国特許1,292,349, 登録1919.1.21)。
  • 1917.10.27 ニューハンプシャーのレオナルド ウェリントンが蓄音機の天板に後付けするスイングアーム形式のクリーニングブラシを特許出願 (米国特許1,396,544, 登録1921.11.8)。
  • 1918.12.26 ミネソタのジョン ルンクが蓄音機のトーンアームにクランプで取り付ける形式で幅広のクリーニングブラシを特許出願 (米国特許1,404,147, 登録1922.1.17)。
  • 1920.6.5 ブルックリンのジョン プリースピルスが蓄音機のトーンアームに取り付ける形式で水平に延長した支持体を有するクリーニングブラシを特許出願 (米国特許1,414,302, 登録1922.4.25)。
  • 1921.4.15 セントルイスのエドワード バクラがレコード盤サイズのクリーニング面を有して回転し、手で保持して使用する形式のクリーニングブラシを特許出願 (米国特許1,422,166, 登録1921.7.11)。
  • 1921.9.6 ペンシルバニアのジュリアス アブラハムズが蓄音機レコードの埃を取るブラシパッドを特許出願 (米国特許1,434,183, 登録1922.10.31)。クリーニング面がベルベットで覆われたカップ構造をしており、手で握ってレコード面を掃除する。最も典型的なアンティークレコードクリーナーの基本特許。
  • 1922.2.20 サウスカロライナのダニエル オドムが蓄音機のターンテーブルの半径と同じ長さを有し、蓄音機の天板に設置してレコードを回転しながらレコード面を掃除する形式のクリーニングブラシを特許出願 (米国特許1,455,504, 登録1923.5.15)。
  • 1922.4.12 ミネソタのメアリー スウェンセンが蓄音機のサウンドボックスに取り付ける形式で円盤型のクリーニングブラシを特許出願 (米国特許1,472,857, 登録1923.11.6)。
  • 1922.4.17 シカゴのチャーリー ランドグラフとイリノイのジョン ヘリノッキが蓄音機のトーンアームに取り付けるクリップを有し、水平方向の支持体の長さを調整できる形式のクリーニングブラシを特許出願 (米国特許1,424,023, 登録1922.7.25)。

アブラハムズ型クリーナー Abrahams' cleaner

蓄音機レコードのほこり取りパッド HMV 5323

SPレコード用のクリーニングパッドの画像
His Master's Voice HMV 5323