104年前の衝撃 - "椿姫"のビオレッタ 銀の糸を紡ぐ美声

アメリタ ガリ=クルチのSPレコード

ベルディのオペラ "椿姫" - そは彼の人か

1921年11月14日、アメリタ ガリ=クルチがニューヨークのメトロポリタン歌劇場で椿姫のビオレッタ役でデビューします。

既にシカゴ オペラ協会との契約がある中、複数のオペラハウスと契約するのは珍しいことでした。当時のガリ=クルチの人気の高さを表しています。

このガリ=クルチのデビュー舞台について、当時のニューヨーク アメリカンという新聞が大絶賛します。

「ガリ=クルチは細心の注意を払って、共鳴する銀の糸を紡ぎだした」

「ガリ=クルチは、その可愛らしい手のひらで聴衆を掌握し、エンディングの幕が下りる前に、感動の渦で完璧な成功を収めた」

何れも、ガリ=クルチが得意としたコロラトゥーラという歌唱法での才能を評価しています。細かく速い音符が連なっている節で、声を転がすように歌うことでドラマチックに彩る技法です。

この衝撃的なニューヨークデビューの2年半前、1919年3月7日にニュージャージーで録音したのが、 “そは彼の人か Ah! Fors' é lui” (椿姫より)。

オリジナルの和訳を添えて。当時の振動をゼンマイの音からお楽しみください。

そは彼の人か Ah! Fors' é lui ... 蓄音機のレコードで

高級娼婦ビオレッタの退院を祝って邸宅で開催された華やかな社交界のパーティー。ビオレッタに心を寄せる青年貴族のアルフレードに、告白の返答として椿の花を贈ります。

「この椿の花がしおれたら返しにきて」

翌日がビオレッタとの再会の機会と捉えたアルフレードの心は舞い上がります。

アルフレードの純愛に心が揺れている自分に驚くビオレッタ。

ビオレッタが歌うのは、”あぁ、そは彼の人か Ah, fors'è lui”。ゼンマイの音から当時の振動を感じてください。

オリジナルの和訳

不思議 なんて 不思議
心の中に 刻まれた あの言葉
真剣な恋とは 不幸になるもの?
どうすれば安らぐの? このざわつく心

こんな喜び 灯したことはなく
恋愛に 愛されるとは 思いもせず
ないがしろになんて できはしない
乾ききった 愚かな人生 なのだから

あぁ そは彼の人か
心が 勝手に ざわめいて
喜び描く 神秘の彩り

慎み深く 注意深く
か弱い心に 忍びこみ
初心な 火種に 点火して
愛の炎を 目覚めさす

この愛は 世界すべてを 震わせて
神秘で気高い 心の十字架
乙女みたいに 純粋で 心細いまま
未来を描く 愛しい人

愛を感じて 世界すべてを 震わせて
神秘で気高い 心の十字架

むなしく 愚かな妄想 そんなもの
人ごみに埋もれた 浅はかな女
砂漠に捨てられ ひとりぼっち
それこそ パリというところ
いったい何を 望めというの?
いったい何を すればいいの?
喜び快楽 滅びゆくまま 渦の中

自由気ままに 喜びから喜び
快楽の小道を 流れて生きて

その日が生まれ その日が死んで
集う場所なら 感じる幸せ
いつもの 新たな喜びに
想いは いっそう 舞い上がる
このSPレコードで唄われている歌詞
不思議 なんて 不思議
心の中に 刻まれた あの言葉
真剣な恋とは 不幸になるもの?
どうすれば安らぐの? このざわつく心

こんな喜び 灯したことはなく
恋愛に 愛されるとは 思いもせず
ないがしろになんて できはしない
乾ききった 愚かな人生 なのだから

あぁ そは彼の人か
心が 勝手に ざわめいて
喜び描く 神秘の彩り

慎み深く 注意深く
か弱い心に 忍びこみ
初心な 火種に 点火して
愛の炎を 目覚めさす

この愛は 世界すべてを 震わせて
神秘で気高い 心の十字架
不思議 気高く神秘的
十字架と喜び 苦しみと歓喜
心の喜び

経緯

  • 1813.10.10 ジュゼッペ ベルディが現在の伊パルマのレ ロンコーレ村で生まれる
    • 1821.3.24 マチルデ マルケージが独フランクフルト アム マインで生まれる
    • 1853.3.6 ベニスのフェニーチェ劇場で”椿姫”が初演。準備不足で大失敗。
    • 1854.5 “椿姫”の再演。念入りな準備により大喝采。
    • 1861.5.19 ネリー メルバが豪メルボルン近郊のリッチモンドで生まれる (本名 ヘレン ポーター ミッチェル)
    • 1871.6.29 ルイーザ テトラツィーニがイタリア フローレンスで生まれる
  • 1882.11.18 アメリタ ガリ=クルチがイタリアのミラノで生まれる
    • 1889.1.15 ホーマー サミュエルズが米国オークレアで生まれる
  • 1906 ガリ=クルチ: アドリア海に面したトラーニ (長靴の踵辺り)でデビュー (ベルディ “リゴレット”のジルダ役)
    • 1907.3.27 メルバがジュゼッペ ベルディのオペラ “椿姫”から”ああ、そは彼の人か”をニューヨークで録音
    • 1907.11.2 ルイーザ テトラツィーニがコベント ガーデンでデビュー (“椿姫” ビオレッタ役)
    • 1908 テトラツィーニ: ニューヨークのマンハッタン歌劇場と契約 (”椿姫” ビオレッタ役)
  • 1908 ガリ=クルチ: マルケーゼ ルイジ=クルチ (小説家/画家)と結婚
    • 1912.5.1 テトラツィーニ: オペラ “椿姫”から”ああ、そは彼の人か”を米国で録音
  • 1916.11.18 ガリ=クルチ: “リゴレット”のジルダ役で米国デビュー (シカゴ)し、大好評。シカゴ オペラ協会と契約
  • 1916 ガリ=クルチ:ビクタートーキングマシーンとレコーディング契約
  • 1917.1.25 ガリ=クルチ:リゴレットから “美しい恋の娘よ Beilla figlia dell’amore” (カルテット)をニューヨークで録音。テナー: エンリコ カルーソ; バリトン: ジュゼッペ ド ルーカ; ソプラノ: アメリタ ガリ=クルチ; コントラアルト: フローラ ペリーニ
  • 1917.1.31 “クラリ: ホーム、スイートホーム” (詩 ジョン ハワード ペイン 曲 ヘンリー ビショップ)をニューヨークで録音
  • 1917.2.2 ジュゼッペ ベルディのオペラ “リゴレット”から “愛しい人の名は Caro nome che il mio cor”をニュージャージーで録音 (ジルダ役)
  • 1919.3.7 ガリ=クルチ: ジュゼッペ ベルディのオペラ “椿姫”から “そは彼の人か Ah! Fors' é lui”をニュージャージーで録音 (ビオレッタ役)
  • 1920 マルケーゼ ルイジ=クルチと離婚
  • 1921 伴奏者のホーマー サミュエルズと結婚
    • 1921.1 シカゴ オペラ協会が倒産。シカゴ シティオペラ カンパニーを経てシカゴ リリック オペラに。
    • 1921.8.2 エンリコ カルーソがナポリで逝去
  • 1921.11.14 ニューヨークのメトロポリタン歌劇場でデビュー (“椿姫”のビオレッタ役; アルフレード役 ベンジャミーノ ジーリ)
  • 1930.1 ガリ=グレチ: オペラの舞台から引退
    • 1950.8.26 ジュゼッペ ド ルーカがニューヨークで逝去
    • 1956.10.14 ホーマー サミュエルズが米国サンディエゴで逝去
  • 1963.11.26 アメリタ ガリ=クルチが米国サンディエゴのラ ホヤで逝去
    • 1975.9.23 フローラ ペリーニが逝去
  • 1988 スタジオジブリの映画 “蛍の墓”のエンディング曲にガリ=クルチが歌った “ホーム, スイートホーム”を使用

アメリタ ガリ=クルチのSPレコード ... 蓄音機でもっと

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