83年前の祈り - "ツリーズ" 尊い自然 神への信仰 若くして戦死した詩人キルマー
ポール ロブスンのSPレコード
ツリーズ ... 作詞 キルマー 作曲 ラスバック
“ツリーズ”は、詩人ジョイス キルマーの詩に、オスカー ラスバックが1922年に作曲してジャズ音楽に仕上げた曲です。
それは、キルマーが亡くなって4年後のことでした。
キルマーは、詩人として認められ始めてまもなく、第一次大戦に出兵し、フランスの田舎の村で戦死しました。1918年7月30日、31歳という若さで、妻と子供、そして僅かな詩集を残してこの世を去ったのです。
このキルマーの詩は、単純な構成なのに巧みに韻を踏んでいて、そしてさりげなく神への信仰と自然の尊さを詩っています。
海外では、このキルマーの詩を対象にした研究論文もあるくらいに愛されている詩なのですが、日本では馴染みがないことから、あまりしっくりくる和訳が見つかりません。
そこでオリジナルで訳してみました。
ポール ロブスンの落ち着いた優しいバスバリトンが、美しい詩の魅力を引き出します。マンチェスター空襲の2年前、キルマーが亡くなって20年後の1938年に英国で録音された “ツリーズ”。
このレコードが入っていたジャケットカバーのレコード店は、マンチェスター空襲で被害があった建物にありました。
自然を崇め、自身の愚かさに対する謙虚な気持ちを書き留め、若くして戦死した詩人。第二次大戦の火種がくすぶる時期に録音されたレコード。直後に空襲にあったレコード店。そのレコードを空襲の街で聴いていた名も知らぬ方。
ゼンマイの音と共に、当時を想像しながら聴いてみてはいかがでしょうか。
ツリーズ Trees ... 蓄音機のレコードで
オリジナルの和訳
樹木ほど 愛らしいポエムがあるだろうか 貪欲に 大地の恵みを吸い上げて いかなる時も 枝葉を広げて神に祈っている 夏には ひばりの巣を飾り 冬には 雪を抱き寄せて 天から降る雨に 自らの命を託している ポエムを書いている 私は愚か者 神さまは ただただ樹木を育む
経緯
- 1886.12.6 ジョイス キルマー: 米国 ニュー ブランズウィックで生まれる
- 1888.8.2 オスカー ラスバック: 米国 ケンタッキーで生まれる
- 1913.8 キルマー: 詩 ”ツリーズ”を“マガジン オブ ヴァース”に発表
- 1917.8 キルマー: 米国陸軍 (第69歩兵連隊)に所属
- 1918.7.30 キルマー: フランス スランジュ=エ=ネル近郊で戦死
- 1922 ラスバック: ジョイス キルマーの詩 “ツリーズ”に作曲
- 1938 ポール ロブスン: 英国で “ツリーズ”を録音
- 1975.3.23 ラスバック: 逝去