116年前の信念 - 金鶏から "太陽への賛歌"をバイオリン編曲で 作曲家が貫いた正義とは

フリッツ クライスラーのSPレコード

リムスキー=コルサコフのオペラ "金鶏" - 太陽への賛歌

オペラ “金鶏”は、ロシアの作曲家、ニコライ リムスキー=コルサコフが1907年9月に作曲しました。当時は未だロシア帝国。ロシアが社会主義国に変貌していく革命体制の真っただ中の時代です。オペラ “金鶏”は内容が体制批判だとして発表の許可が下りないまま、リムスキー=コルサコフは、作曲から僅か9か月後の1908年6月21日にこの世を去ります。

初めて公演されたのは、リムスキー=コルサコフが亡くなった翌年の1909年10月7日。作曲から2年が経っていました。

ロシア政府の反発にも一歩も譲らずに抵抗したリムスキー=コルサコフの信念と正義が勝った瞬間です。

1914年にはパリのオペラ座でも公演。さらに1917年に勃発したロシア革命の翌年、1918年3月6日にはニューヨークのメトロポリタン歌劇場でも公演され、長年に渡って好評を博したのでした。

フリッツ クライスラーは、オペラ “金鶏”の第2幕の楽曲 “太陽への賛歌“をバイオリン演奏に編曲します。そして自分自身で演奏して録音したのが、1928年3月24日。リムスキー=コルサコフが亡くなって20年後のことでした。

正義を貫いたリムスキー=コルサコフの想いと時代背景を映すクライスラーの演奏に、当時の生の振動をゼンマイの音から感じてください。

"太陽への賛歌"をロシア語の原詩で

応え賜え! 鋭き陽光で Ответь мне, зоркое светило

日本語のタイトルで "太陽への賛歌"。オペラ "金鶏"の第二幕で、シェマハを統治する女王 ツァーリツァがドドン王に向けて歌います。

金鶏を介した企みにより、ドドン王の2人の王子は殺し合いの末に軍隊までも壊滅。シェマハの侵略に失敗したドドン王は、この歌とシェマハの女王の美しさに完全に魅了されてしまいます。

ついにはツァーリツァと結婚しますが、金鶏によってドドン王は殺されてしまうという物語です。

英語のタイトルは、"Hymn to the sun 太陽への賛歌"。フランス語のタイトルも、"Hymne au soleil 太陽への賛歌"。

ところが、ウラジーミル ベリスキーが書いた元々のリブレットはロシア語で、"Ответь мне, зоркое светило"。敢えて和訳すれば、"応え賜え! 鋭き陽光で"。

フリッツ クライスラーが編曲したバイオリン曲も、当時の振動を感じて欲しいから、敢えてロシア語の原詩からオリジナルの和訳を添えてみました。

オリジナル和訳 - ロシア語の原詩より

応え賜え! 鋭き陽光で Ответь мне, зоркое светило
応え賜え 鋭き陽光で
東方から 来た そなた
我が故郷を 訪れたか
幻想的な 夢の故国を

バラの花は まだ 輝いているか
ユリの花園は 燃えているか
ターコイズ色の とんぼは
萌え立つ草木に キスしているか

夕暮れ時 池のほとり
乙女や淑女の 慎ましき歌
相も変わらず 素晴らしき 静けさ
愛とは 禁じられた 情熱の夢か
相も変わらず 愛しき御方は 偶然か

準備はできているか
贈り物に ささやかなご馳走
秘めた美貌 恥じらいのベール
秘めた美貌 恥じらいのベール

夜は 青みを増して
彼のもと 恥も恐れも 共に忘れ
はやる心 若き女王
こぼれ落ちる 甘美な告白

はやる心 若き女王
はやる心 若き女王
こぼれ落ちる 甘美な告白

経緯

  • 1844.3.18 ニコライ リムスキー=コルサコフがサンクトペテルブルグ東方の街ティフビンで生まれる
  • 1856-1862 リムスキー=コルサコフ:ロシア帝国海軍に所属
  • 1866.4.14 ウラジーミル ベリスキーがリトアニアのトラカイ (当時ロシア)で生まれる
  • 1871 リムスキー=コルサコフ:ペテルブルク音楽院の教授就任
  • 1871.10 リムスキー=コルサコフ:ピアニストで作曲家のナジェージダ プリゴリトに求婚
  • 1872.7 リムスキー=コルサコフ:ナジェージダと結婚。介添人はムソルグスキー
  • 1905 ロシア革命に至る第一次革命が勃発
  • 1906-1907.9 オペラ “金鶏 Золотой петушок”を作曲 (リムスキー最後の作品; リブレット: ウラジーミル ベリスキー)。体制批判として公表されず。
  • 1908.6.21 リムスキー=コルサコフ:ロシアのルーガ近郊で逝去
  • 1909.10.7 オペラ “金鶏”の初演 (モスクワのソロドフニコフ劇場)
  • 1917 ロシア革命
  • 1918.3.6 ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で “金鶏”の米国初演
  • 1928.3.24 フリッツ クライスラー:リムスキー=コルサコフのオペラ "金鶏"から "太陽への賛歌 Ответь мне, зоркое светило (応え賜え鋭き陽光で)"を編曲しニューヨークで録音
  • 1946.2.28 ウラジーミル ベリスキーが独ハイデルベルグで逝去

フリッツ クライスラーのSPレコード ... 蓄音機でもっと

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